負担重量
負担重量(ふたんじゅうりょう)とは、競馬の競走において、競走馬が負担しなければならない重量のことである。
日本においては、昔、斤(きん)という尺貫法の単位で重さを定めていたことから斤量(きんりょう)とも呼ばれる(由来は、かつて負担重量の単位に英斤(ポンド)が用いられていたため)。
また、カンカンともいう。現在日本ではキログラムが単位として用いられる。アメリカなどではヤード・ポンド法のポンドやストーンが単位に用いられる。
負担重量概要
平地競走および障害競走では、騎手自身の体重と騎手が身に着けている勝負服やプロテクター・鞍など所定の馬具をあわせた重量を指す。
この際ヘルメットや鞭、番号ゼッケン、ゴーグルなどは含まない。なお一般に発表される負担重量は実際に計量した重量とは異なる場合があり、中央競馬の場合「保護ベストの標準的な重量に相当する分として0.5キログラムを減じた重量」となっている[1]。
負担重量に満たない場合は鉛などの重りを体に装着するか鞍に入れて調整する。逆に負担重量を所定以上超過した場合(中央競馬の場合は2kg以上[2])は騎乗できず、強制的に乗り替わりとなる。なお中央競馬では、負担重量の超過が所定範囲以内の場合は裁決委員の許可を得ることでそのまま騎乗が可能だが、これを複数回繰り返すと騎乗停止となる場合がある(詳しくは騎乗停止#体重調整を参照)。
ばんえい競走では、騎手の重量が一律に規定(75キログラム、冬季は77キログラム)されており、ソリに積載する重量物の重さ(470-1000kg)が負担重量となる(詳細は当該記事を参照)。
負担重量の遵守
競走中、定められた負担重量となっているかを検査するために、競走前に前検量、競走終了直後に後検量を行う。前検量については競走と競走の間の時間が短いため、競走当日の所定の時刻前に前検量を行うことができる。前検量を済ませた鞍を競走馬につける際には不正がないように係員のいる装鞍所でないとつけることができない。
後検量は上位入線馬(中央競馬の場合7着以内[3]。ただし写真判定で7着になる可能性のある馬が複数ある場合はその可能性のある馬のすべてが対象[4])ならびに上位人気馬に対して行われる。
後検量を受ける騎手は原則としてレースで騎乗した馬に騎乗したまま検量所に向かわなければならない[5]。検量が終了して定められた負担重量となっていることが確認されないと競走は確定されない(ただし騎手が怪我を負った場合など、検量が困難な場合は省略されることもある[6])。負担重量が遵守できなければ騎手は騎乗停止となる。
降雨などにより衣類に雨を吸い込み重くなってしまったなど、裁決委員がやむを得ないと判断した場合を除き、前検量と後検量の差が-1キログラムを超えると失格となる[7]。この場合入線してしばらくしてから審議のランプがつくこととなる。
また-1キログラムに満たない範囲でも、検量結果に不自然な増減が見られた場合には過怠金の対象となることがある[8]。なおJRAでは2011年1月1日以降は、不利な条件下で達成された成績は尊重されるべきという観点から、斤量の増加については失格裁定の対象から外され、1キログラムを超える減少のみが失格となるように改正された。
この規定は同年4月1日以降地方競馬およびばんえい競馬にも適用されるようになった[9]。ただしばんえい競馬の場合は12キログラムを超える減少で失格となる。
負担重量の決め方
負担重量の決め方は大きく分けて二つ存在する。
一つは、全ての出走馬を同一の条件下に置いて、最も強い競走馬を決めようという方法であり、競走馬の年齢、および性別だけで負担重量を決める。馬齢重量戦(馬齢戦と略される)や定量戦がこの方法に含まれる。
一方で、出走メンバーをある程度多様にするために、出走馬全てに勝利できる可能性を均等に与えるべく、強い馬と弱い馬の間にハンデキャップを設ける方法もある。現在の競馬においては負担重量を変更することによってハンデキャップをつける。別定戦もしくはハンデキャップ競走はこの方法に含まれる。
なお、かつては競走馬の体高に基づいて負担重量が定められることもあった。
また、地方競馬では「規定」(ホッカイドウ競馬)、「年定」、「別規」(福山競馬場)などの負担重量の競走がある。
負担重量馬齢重量戦
馬齢重量戦(馬齢戦とも略される)とは、過去に勝ったレースの格などに関わらず、馬齢重量表に従って馬の性別と年齢のみで負担重量が決定される競走のことである。定量戦との違いは、定量戦は競走毎に負担斤量を決定するのに対して、馬齢戦は全ての競走に同一の基準で負担重量を決定することにある。
現在の中央競馬においては馬齢重量表は2歳と3歳の分しか定められておらず、4歳以上の馬を含めた古馬の競走は全て馬齢戦以外(主に定量戦)で行われている。これは3歳以上ならびに4歳以上の競走において、3歳(年明けの4歳)と4歳以上(同、5歳以上)が距離区分に応じて同一時期でも負担重量の差が変更される措置を導入したことによるものである。
中央競馬における負担重量馬齢重量表
年齢 2歳 3歳
1-9月 10-12月 1-9月 10-12月
負担重量 牡・騸 54kg 55kg 56kg 57kg
牝 54kg 54kg 54kg 55kg
負担重量セックスアローワンス
一般的に牡馬と牝馬の間には能力差があるため、それを補うために性別によってつける負担重量差のことをセックスアローワンスという。
19世紀のはじめにイギリスのジョッキークラブの公式ハンデキャッパーであったヘンリー・ラウスが考案した。ただし、セックスアローワンスで認められる重量差は国やレース内容によってさまざまであり、一律の値ではない。日本では中央競馬も地方競馬もほぼ同一で、牝馬は2歳10月~2歳12月までは1キログラム、3歳以降2キログラムの減量が認められる。
負担重量北半球産、南半球産のアローワンス
ウマの発情期が、北半球にいるウマと南半球にいるウマで半年のズレがあるため、出産時期も北半球にいるウマと南半球にいるウマでは半年ズレてくる。
従って、ウマの成長にも半年のズレがあるため、北半球産馬と南半球産馬の間に負担重量の差をつける。日本の中央競馬の平地競走においては、南半球産で7月1日以降に出生した競走馬は北半球産馬よりも減量される。このアローワンスは馬齢戦のほか、定量戦、別定戦でも適用される。障害競走においては産地によるアローワンスは認められない。
定量戦
定量戦とは、馬の性別や年齢のみで負担重量が決まる競走のことである。ただし、馬齢重量表に従って決定される競走は馬齢戦と呼ばれ、定量戦とは呼ばれない。馬齢戦とは異なる重量体系で行われることから、別定重量戦の一種とされる。
競走毎に負担重量を決める事が可能であり、特定の年齢(大体は2歳、3歳)において大きな減量を行うなどの優遇策をとり出走を促すこともできる。優勝劣敗の原則に沿いつつ、(馬齢戦に比べて)競走ごとの個性を出すことが可能なため、日本やヨーロッパのほとんどのグレードワン・グループワン競走が定量戦であるが、アメリカやオーストラリアなどにはハンデキャップのグレードワン競走もある。
別定戦
別定戦(別定重量戦とも言われる)は、馬の性別と年齢で定められる基準重量に、その馬の獲得した賞金(競走によって収得賞金、番組賞金、総獲得賞金など用いられる値が異なる。
収得賞金などの用語は日本の競馬の競走体系を参照)の額、過去に勝利した競走のグレードなどによって重量が加算され、負担重量が決定される競走のことである。加算が全競走馬にも行われないとされる競走は定量戦と呼ばれる。
セックスアローワンス、産地によるアローワンスは馬齢重量戦とほぼ同一で、3歳以上の競走では牝馬は牡馬の基準重量から2kg減で計算される。計算上では著しく重い負担重量も想定されるが(特に獲得賞金によって加算重量が決定される場合)、実際には60kgを越える斤量で出走に踏み切ることは希である。
ハンデキャップ競走との違いは、ハンデキャップ競走が出走メンバーの相対的な能力により主観的に負担重量が決定されるのに対し、賞金や勝ち鞍といった客観的な要素によって負担重量が決定されるところにある。
ハンデキャップ戦
斤量が馬に与える影響
フランスの凱旋門賞では4歳以上牡馬に59.5kgを背負わせて走らせることになっており、前哨戦で好成績をあげたのにもかかわらず、連覇に臨む馬が惨敗することが多い。
ただし、イギリスの短距離GIであるナンソープステークスは4歳以上牡騸馬の斤量が62kgとなっているなど、凱旋門賞が特別な重量であるとはいえない。
斤量が与える影響に関しては、凱旋門賞が行われる高低差の激しいロンシャン競馬場とナンソープステークスが行われる平坦なヨーク競馬場の違いもあり、コース設計やレース距離が影響している可能性もある。
実際、凱旋門賞はフランスで時期、距離区分によって決定された馬齢重量に従い、他のレースと同じく3歳と4歳以上は3.5kgの斤量差があるが、凱旋門賞だけは顕著に3歳が有利になっている。ロンシャン競馬場で凱旋門賞と同日に行われるアベイ・ド・ロンシャン賞は古馬、3歳共に62kgである。
また、斤量差は日本のような走りやすい軽い芝よりも、欧州のように力のいる重い芝の方がより顕著に出るといわれていて、日本の競馬では重馬場の時に斤量の軽い方がより有利になるといわれている。
アメリカのダート競走はハンデキャップ競走を除けば日本同様58kg以上の斤量を背負ってGI競走を走ることはまれであり、こちらは日本の競馬に近いと言える。一方で、欧州は全般的に60kg以上を背負うことも多い。
日本では馬によっては59kgのハンデを苦にせずGI競走の前哨戦で背負いながらも勝つことも多く、実際のところは馬の能力によって左右される。ただし、日本では60kg以上の斤量で出走させることは稀である。
特に、ハンデキャップ競走で66.5kgの斤量を背負ってレース中に故障したテンポイントの事故以降、極端に重い斤量を嫌う傾向が顕著となっている。ただし、科学的に斤量の差がどのくらい馬に負担をかけるのかは解明されていない。
障害競走では道中あまりにスピードを出しすぎると飛越の際に危険を伴うので日本では60kg程度の斤量となることが多い。日本以外では国により異なるがより重い斤量となっており、イギリスのGIのチェルトナムゴールドカップでは6歳以上牡騸馬は74.5kgと定められている。
負担重量脚注
^ 日本中央競馬会競馬施行規程・第99条
^ 日本中央競馬会競馬施行規程・第100条
^ 日本中央競馬会競馬施行規程・第120条
^ 藤田伸二「競馬番長のぶっちゃけ話」(2009年 宝島社)
^ 日本中央競馬会競馬施行規程・第120条2項
^ 日本中央競馬会競馬施行規程・第120条4項
^ 日本中央競馬会競馬施行規程・第123条2項
^ 例として「重量オーバー ペリエに過怠金3万円」(競馬ネットmagazine・1998年12月1日号)を参照。また岡部幸雄も2001年の京王杯スプリングカップでスティンガーに騎乗した際、同理由で過怠金の対象となったことがある。
^ 地方競馬全国協会サイト「競走ルールの変更について」
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