審議
競馬における審議(しんぎ、英:Stewards’ Inquiry,または単にinquiryとも)とは、ある競走において発馬機のゲートが開いてから決勝線を迎えるまでの間に、不正な行為がなかったかを審査やチェックすることを指す。
審議概要
審議は、競走中に進路妨害の疑いが生じたり、負担重量に問題が生じたりした場合に行われる。審議を行う場合には、裁決委員が場内アナウンス担当者を通して審議を行う旨を場内に知らせる。
知らせる方法として、電光掲示板と場内への審議放送が行われる。
電光掲示板では「審議」もしくは審議の略である「審」を掲示する場合が多い。また青ランプも点灯させる競馬場がある(おもに中央競馬)。この審議が行われる旨は、競走中に早々と示される場合もあれば、後検量で負担重量に問題があった場合など、競走が終わってしばらくしてから示される場合もある。通常は全馬入線後に知らされるが、まれに競走中に電光掲示板に審議を行う旨が示されることがある。
競走終了後、裁決委員がパトロールビデオを見てその競走馬が降着・失格の対象になるか否かを審議する。日本の中央競馬の場合、場合によっては被害馬・審議対象馬双方の関係者を裁決室に呼び事情を聴くこともある。なお地方競馬や日本国外の場合は、基本的には関係者を呼ばずに裁決委員が当該関係者に伝えるのみである。
審議終了後、降着・失格の有無に関係なくふたたび審議放送が同じく場内アナウンス担当者によって行われ、審議の結果が場内に告知される。
基本的には審議の終了まで着順が確定されず、審議の結果によっては着順の変更が生じるため、場内放送で「お手持ちの勝馬投票券はお捨てにならないようにお願い申し上げます」とアナウンスされることもある。
また審議が長引き、上位入線馬には影響がない場合には、上位入線馬のみを確定し、引き続き審議を行う場合がある(これは馬券の払い戻しを一刻も早く行うためである)。
審議の結果、不正や反則が認められた場合は、状況に応じて制裁が加えられる。制裁には馬に主たる原因があるものと人馬ともに原因のあるものなどいくつかに区別され、反則の内容により裁決委員により制裁の内容を決定する。
中央競馬においては、レース終了後は審議の有無に関わらず5位以内入線馬の着差が電光掲示板(着順掲示板)に順次表示されるが、5位以内入線馬に降着・失格があって確定した場合は、確定後も着差は電光掲示板には表示されない。ただしJRAの公式刊行物およびウェブサイト上には「○位降着」(=○位で入線したのち降着になった意)などと表示される。
審議放送
審議を行う旨や審議の結果などは、場内放送を用いてアナウンスを行う。このアナウンスを審議放送と呼ぶ。審議放送では、発生した地点(発走後間も無く、第○コーナー、向正面、最後の直線コース、決勝線手前、○周目第○号障害飛越の際)、被害を受けたと思われる馬名、発生した案件(進路が狭くなったこと、つまずいたこと、バランスを崩したこと、騎手が落馬したこと、転倒したこと、競走を中止したこと、外にふくれたこと)をアナウンスする。
ただし、2頭が接触したと思われる事案は「○○号と××号が接触したこと」とし、案件がはっきりしない場合は馬名を挙げずに「第○コーナーでの出来事」とアナウンスする。
以下に中央競馬における審議放送の内容を挙げる。なお、馬名はすべて架空の馬名である。
審議の実施
「お知らせ致します。○○競馬第○レースは~」に続いて審議対象案件の説明となる。最後に「お持ちの投票券は、勝ち馬が確定するまで、お捨てにならない様お願い致します。」とアナウンスされる。
審議対象案件のアナウンスの例
「決勝線手前で、11番セカイイチゴウ号の進路が狭くなったことについて審議を致します。」
「発走後間も無く、11番セカイイチゴウ号がつまずいたことについて審議を致します。」
「最後の直線コースで、11番セカイイチゴウ号の騎手がバランスを崩したことについて審議を致します。」
「向正面で、11番セカイイチゴウ号の騎手が落馬したことについて審議を致します。」
「最後の直線コースで、11番セカイイチゴウ号が転倒したことについて審議を致します。」
「第4コーナーで、11番セカイイチゴウ号が競走を中止したことについて審議を致します。」
「第1コーナーで、11番セカイイチゴウ号が外にふくれたことについて審議を致します。」
「2周目第3コーナーで、7番セカイオウ号と11番セカイイチゴウ号が接触したことについて審議を致します。」
「第3コーナーでの出来事について審議を致します。」
「最後の直線コースで、11番の進路が狭くなったこと、及び7番の進路が狭くなったことについて合わせて審議を致します。」
「競走後半で、11番の進路が狭くなったことについて審議を致します。」 (新潟直線1000mの場合のみ)
上位入線馬に審議の対象馬がいない場合の審議
「お知らせ致します。○○競馬第○レースは引き続き審議しておりますが、第○着までは到達順位の通り確定致します。」とアナウンスされる。この場合、競走としては確定ではないが馬券は確定となり、追って払戻しのアナウンスが行われる。
なお審議終了後、降着・失格の有無に関わらずその結果がアナウンスされる。
審議終了(進路妨害等が認められないと判断した場合)
「お待たせ致しました。○○競馬第○レースは、審議を致しましたが、到達順位の通り確定致します。なお~」に続いて審議結果がアナウンスされる。
審議結果のアナウンスの例
「審議の対象馬は7番であり、最後の直線コースで、11番の進路が狭くなったものでありました。」
「最後の直線コースで、11番は充分な進路が取れなかったため控えたものであり、進路が狭くなったものでありました。」
「7番は左側に寄れたことにより、最後の直線コースで、11番の進路が狭くなったものでありました。」
「この件は7番が内側に動いたことにより、最後の直線コースで、11番の進路が狭くなったものでありました。」
「最後の直線コースで、11番はバテ下がった前の馬をかわすため、控えたものでありました。」
「11番は他の馬に関係なく、つまずいて騎手が落馬し、最後の直線コースで、競走を中止したものでありました。」
「11番は他の馬に関係なく、最後の直線コースで、外にふくれたものでありました。」
「審議の対象馬は先の件は3番で最後の直線コースで、11番の進路が狭くなったものであり、後の件は5番で同じく最後の直線コースで7番の進路が狭くなったものでありました。」
審議終了(降着・失格が生じた場合)
「お待たせ致しました。○○競馬第○レースの審議についてお知らせ致します。」に続いて審議結果がアナウンスされる。冒頭部のアナウンスが降着・失格が生じない場合と異なる。
審議結果のアナウンスの例
「第3位に入線した、7番セカイオウ号は、最後の直線コースで急に内側に斜行し、11番セカイイチゴウ号の走行を妨害したため、第9着に降着とし、着順を変更の上、確定致します。従って、3着までの着順は、1着4番、2着8番、3着1番となります」
「第3位に入線した、7番セカイオウ号は、2周目6号障害で急に内側に斜飛し、11番セカイイチゴウ号の走行を妨害したため、第9着に降着とし、着順を変更の上、確定致します。従って、3着までの着順は、1着4番、2着8番、3着1番となります」
「第3位に入線した、3番セカイセイハ号は、最後の直線コースで急に内側に斜行し、11番セカイイチゴウ号の走行を妨害したため、第9着に降着とし、着順を変更の上、確定致します。従って、3着までの着順は、1着4番、2着8番、3着1番となります。なお、最後の直線走路で、7番の進路が狭くなったことについて審議をいたしましたが、この件による失格馬、及び降着馬はございません。なお、この件の対象馬は、5番でした。」
「第3位に入線した、7番セカイオウ号は、最後の直線コースで急に外側に斜行し、11番セカイイチゴウ号の走行を妨害したため、失格とし、着順を変更の上、確定致します。従って、3着までの着順は、1着4番、2着8番、3着1番となります」
「第3位に入線した、7番セカイオウ号は、2周目6号障害で急に外側に斜飛し、11番セカイイチゴウ号の走行を妨害したため、失格とし、着順を変更の上、確定致します。従って、3着までの着順は、1着4番、2着8番、3着1番となります」
審議終了(被害馬が先着していた場合)
「お待たせ致しました。○○競馬第○レースは、審議を致しましたが、到達順位の通り確定致します。なお~」に続いて審議結果がアナウンスされる。
審議結果のアナウンスの例
「7番セカイオウ号は、最後の直線コースで、11番ウィキペディア号の走行を妨害しましたが、被害馬が先着のため、着順の変更はありません」
中央競馬の「不服申立て制度」 の審議
中央競馬では1994年以降、審議の結果裁決委員が下した判定に不服のある当事者(馬主、騎手、調教師)は裁決委員以外の上部機関[注 1]にアピール(不服申し立て)を所定の保証金を支払う(2011年時点では10万円[2])ことで行うことができる(アピール制度)[3]。2011年2月までに行われた申し立てはすべて棄却されている[4]。
審議注釈
^ 当初は日本中央競馬会の役職員のみで構成されていたが、2009年6月20日から外部委員がメンバーに加わった[1]。
審議脚注
^ 谷川善久 (2009年6月14日). “中央競馬ニュース「不服審理委員会に外部委員が参加」” (日本語). Racing Topics. 日本中央競馬会. 2011年3月8日閲覧。
^ “幸 英明騎手からの不服申立てについて” (日本語). 日本中央競馬会 (2011年2月28日). 2011年3月8日閲覧。
^ “中央競馬Q&A 第12版 (PDF)” (日本語). 日本中央競馬会. pp. 20 (2010). 2011年3月8日閲覧。「Q43.不服申立て(アピール)制度とは。」参照
^ “幸の申し立て棄却” (日本語). スポーツ報知 (2011年3月3日). 2011年3月8日閲覧。
審議参考資料・出典
走路妨害および制裁について(JRAホームページ内)
藤田伸二「競馬番長のぶっちゃけ話」(宝島社 2009年)
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