三大始祖
三大始祖(さんだいしそ)とは現在のサラブレッドの直系父系祖先を可能な限り遡った場合に辿り着くダーレーアラビアン(Darley Arabian 1703)・バイアリーターク(Byerley Turk 1679)・ゴドルフィンアラビアン(Godolphin Arabian 1724)の3頭の種牡馬の事である。
三大始祖概要
現存のサラブレッドの血統を父の父そのまた父というふうに遡っていくと、必ず3頭の種牡馬に辿り着く。このため、この3頭を三代始祖と称する。
三代始祖が生存していた時代には、「サラブレッド」の概念は成立していなかった。後世に「サラブレッド」として品種が確立されたウマの父系先祖をたどった場合に、個体の記録が公式に残っているものとして行きつく最古のウマ、ということである。
サラブレッドは複数の品種を用いた品種改良の結果誕生した品種である。三大始祖は品種改良に用いられた多数の馬のうちの3頭に過ぎず、したがって三大始祖それぞれはサラブレッド品種ではない点にも注意を要する。
例外もあるが原則的に両親ともサラブレッドでなければその仔もサラブレッドとして登録できないため、今後も三大始祖以外を父系祖先とするサラブレッドは生まれて来ることがない。
三代始祖と三大基礎種牡馬
日本では上記それぞれの父系子孫で、これらの父系を発展させた3頭を三代始祖と称する場合もある。
ダーレーアラビアン – エクリプス(Eclipse 1764)
バイアリーターク – ヘロド(Herod 1758)
ゴドルフィンアラビアン – マッチェム(Matchem 1748)
サラブレッドの場合、エクリプスを介さないダーレーアラビアンの父系子孫は現存していない。他の系統も同様である。したがって、現存のサラブレッドについては、ダーレーアラビアンの父系子孫はすべてエクリプスの父系子孫となる。
このため、現存のサラブレッドを分類する場合、エクリプス系、ヘロド系、マッチェム系と3つに大別する場合もあり、注意を要する。混同を避けるため前者を三大始祖、後者を三大基礎種牡馬として区別する場合もあるが、英語圏で三大基礎種牡馬(three foundation stallions)と言った場合、ダーレーアラビアン、ゴドルフィンアラビアン、バイアリータークの3頭を指す。他に三大根幹種牡馬等とも言う。
三大始祖に対する誤解
三大始祖というのは、現在生きているサラブレッドの父方祖先を遡った末にたどり着く3頭の種牡馬というだけのことであり、本来人間で言う一族の祖以上でもそれ以下でもない。
サラブレッドは3頭から始まったと言われることもあるが、当然牝祖は別におり、当時は別の種牡馬も活躍していた。このためサラブレッドは3頭から始まったというのは完全に誤りである。
三大始祖の血量を合計しても25%程度でしかない(ゴドルフィンアラビアンはサラブレッド最大の祖ではある)。また、サラブレッドは複数の品種を用いた品種改良の結果誕生した品種であり、三大始祖は品種改良に用いられた多数の馬のうちの3頭に過ぎず、したがって三大始祖それぞれはサラブレッド品種ではない点にも注意を要する。
また、あくまでも現存のサラブレッドをたどると3頭に行きつくというだけであり、この3頭以外の子孫のサラブレッドが存在しなかった、ということではない。かつてはこれ以外の父系統もあったが、現存していない。現在のサラブレッドの定義の基礎となっているジェネラルスタッドブックには、この3頭を含めて100頭以上の種牡馬が記録されており、これらの子孫もサラブレッドである。
三大始祖サラブレッド以外
サラブレッド以外の品種では三大始祖の何れかが単一の始祖となっていることが多い(多くはダーレーアラビアンが)。競走馬として使われるスタンダードブレッドは、エクリプスを介さないダーレーアラビアン系であるフライングチルダーズ系が実に99%をも占める。イタリア史上最強馬ヴァレンヌを例にとると
ヴァレンヌ
父Waikiki Beach→Speedy Somolli→Speedy Crown→Speedy Scot→Speedster→Rodney→Spencer Scott→Scotland→Peter Scott→Peter the Great→Pilot Medium→Happy Medium→Hambletonian 10→Abdallah→Mambrino II(これ以前はサラブレッド)→Messenger→Mambrino→Engineer→Sampson→Blaze→Flying Childers→Darley Arabian(22代前がダーレーアラビアン)
となっている。ただしスタンダードブレッド以外のトロッターにまで広げるとマッチェム系も若干の勢力を持っている。
そのほかの品種については
クォーターホース – ハーミット系とピーターパン系(どちらもエクリプス系の一派)が多い。
セルフランセ – 比較的最近成立した品種であるため、雑多な父系が残るが、それでもセントサイモン系(エクリプス系の一派)が最も多く、次いでハリーオン系(マッチェム系の一派)が多いという。
三大始祖歴史
三大始祖成立
サラブレッドがまだイングランドのランニングホースと呼ばれていた時代には三大始祖以外の父系も数多く存在していた。代表的な物としては、オルコックアラビアン系や、ダーシーズホワイトターク系があり、ジェネラルスタッドブック第一巻には三大始祖を含めた102頭の基礎種牡馬が記載されている。
これら102頭の内実際に父系を伸ばせたのは10数頭であったが、それでも18世紀初頭には必ずしも現在の三大始祖が特別な地位を占めていたわけではなかった。
ゴドルフィンアラビアンやダーレーアラビアンは当初から大きな勢力を持っていたが、それもダーシーズホワイトターク系などを圧倒する程ではなく、バイアリータークの父系に至っては当初弱小父系に過ぎなかった。この時代には、ダーシーズホワイトターク系のベイボルトンが8度種牡馬チャンピオンになり、オルコックアラビアン系のスペクテイターがマッチェムを破っている。
1760年から80年代になると、三大始祖の父系から登場したエクリプス、ヘロド、マッチェム、及びヘロドの産駒ハイフライヤー等が種牡馬として大きな成功を収めることで他の父系は圧倒されていく。イギリス本国では1785年のエイムウェルによるイギリスダービー制覇を最後にオルコックアラビアン系の組織的な抵抗が終わり、新大陸に逃れたダーシーズホワイトタークとセントヴィクターズバルブの系統も19世紀中ごろまでには完全に滅ぼされた。こうして三大始祖が成立した。
三大始祖勢力の増減
この頃の各父系の勢力はヘロド系が最も大きく、次いでエクリプス系、マッチェム系であった。しかし、ヘロド系は何頭かの突出した種牡馬、ヘロド系を後押しした馬産家がいたにもかかわらず著しく衰退、マッチェム系も同様に衰退した。200年経過した21世紀初頭、エクリプス系が圧倒的勢力を築いている。なお、かつてはエクリプス系、ヘロド系どちらが競走馬として優れているかの議論も行われていたが、現在は三大始祖いずれの父系に属しているかによって能力等に差は生じないと考えられている。
三大始祖他品種への拡大
19世紀以降、サラブレッドの優秀性が認められるにつれ、他の品種の改良にサラブレッドが頻繁に使われた。スタンダードブレッドや北米における乗用種の成立に関わったメッセンジャー、クォーターホースの改良に貢献したスリーバー、セルフランセの父祖に見られるオレンジピール及びフリオーソ等を通じて三大始祖は他品種に浸透した。現在では三大始祖の勢力はサラブレッドに限られたものでは無くなっている。
三大始祖現存のサラブレッドの例
ディープインパクト
父サンデーサイレンス→Halo→Hail to Reason→Turn-to→Royal Charger→Nearco→Pharos→Phalaris→Polymelus→Cyllene→Bona Vista→Bend Or→Doncaster→Stocckwell→The Beron→Birdcatcher→Sir Hercules→Whalebone→Waxy→Potoooooooo→Eclipse→Marske→Squirt→Bartlet’s Childers→Darley Arabianとなり25代遡るとダーレーアラビアンへ辿り着く
ナリタブライアン
父ブライアンズタイム→Roberto→Hail to Reason→Turn-to→Royal Charger→Nearco→Pharos→Phalaris→Polymelus→Cyllene→Bona Vista→Bend Or→Doncaster→Stocckwell→The Beron→Birdcatcher→Sir Hercules→Whalebone→Waxy→Potoooooooo→Eclipse→Marske→Squirt→Bartlet’s Childers→Darley Arabian(これも25代遡るとダーレーアラビアンへ)
シンボリルドルフ
父パーソロン→Milesian→My Babu→Djebel→Ambiorix→Tourbillon→Ksar→Bruleur→Chouberski→Gradefeu→Cambyse→Androcles→Dollar→The Flying Dutchman→Bay Middleton→Sultan→Selim→Buzzard→Woodpecker→Herod→Tartar→Partner→Jigg→Byerley Turk(24代前はバイアリーターク)
ミスターシービー
父トウショウボーイ→テスコボーイ→Princely Gift→Nasrullah→Nearco→Pharos→Phalaris→Polymelus→Cyllene→Bona Vista→Bend Or→Doncaster→Stocckwell→The Beron→Birdcatcher→Sir Hercules→Whalebone→Waxy→Potoooooooo→Eclipse→Marske→Squirt→Bartlet’s Childers→Darley Arabian(24代前はダーレーアラビアン)
シンザン
父ヒンドスタン→Bois Roussel→Vatout→Prince Chimay→Chaucer→St.Simon→Galopin→Vedette→Voltigeur→Voltaire→Blacklock→Whitelock→Hambletonian→King Fergus→Eclipse→Marske→Squirt→Bartlet’s Childers→Darley Arabian(19代前はダーレーアラビアン)
セントライト
父ダイオライト→Diophon→Grand Parade→Orby→Orme→Ormonde→Bend Or→Doncaster→Stocckwell→The Beron→Birdcatcher→Sir Hercules→Whalebone→Waxy→Potoooooooo→Eclipse→Marske→Squirt→Bartlet’s Childers→Darley Arabian(20代前がダーレーアラビアン)
クライムカイザー
父ヴェンチア→Relic→War Relic→Man o’ War→Fair Play→Hastings→Spendthrift→Australian→West Australian→Melbourne→Humphrey Clinker→Comus→Sorcerer→Trumpator→Conductor→Matchem→Cade→Godolphin
Arabian(18代前がゴドルフィンアラビアン)
三冠馬の6頭の内、5頭がダーレーアラビアンの直系子孫であることからも分かるように、この3系統の中でもその勢力には大きな隔たりがある。
ダーレーアラビアン(エクリプス)を父系祖先とする馬、すなわちエクリプス系が全世界のサラブレッドのうち95%をも占めている。残りはゴドルフィンアラビアン(マッチェム系)が多く、バイアリーターク(ヘロド系)はイギリス・アイルランドを中心に少数が残るのみとなっている。日本における偏りはさらに大きく、2008年に日本国内で血統登録されたサラブレッドの99.5%はエクリプス系(内訳はファラリス系97%、リボー系2%、他0.6%)であり、ヘロド系(0.3%)、マッチェム系(0.2%)の割合は極めて小さい。
三大始祖アメリカンダミー
三大始祖以外の馬が現在も種牡馬として活動しているとする見解も一部にはある。日本の血統研究家の中島国治は、かつてのアメリカにおいてはクォーターホースをはじめとするサラブレッド以外の品種の馬の仔が、血統を偽ってサラブレッドとして登録されていたと主張し、三大始祖以外、それもサラブレッド以外の品種の父系子孫が現在も種牡馬として活動しているという説を唱えている[1]。そのような馬のことを中島はアメリカンダミーと呼び[2]、近親交配を解消するための有効な手段だと主張した。
なお、競走用クォーターホースはハーミットとヒムヤーの子孫が大半であり、残りも新興のファラリス系が殆どである。基本的にエクリプス系に属していると考えてよい。
三大始祖その他
インドには三大始祖とオルコックアラビアンを記念したダーレーアラビアンステークス、ゴドルフィンバルブステークス、バイアリータークステークス、オルコックアラビアンステークス(全てインド国内GIII)という競走がある。
馬主法人であるゴドルフィン、ダーレー・ジャパン・レーシングの名も三大始祖が元になっている。
メダルゲームの『STARHORSE』『STARHORSE2』には、三大始祖が登場し架空の競馬場で競走するレース(ゲーム上で行われる架空のレース)がある。ただし三大始祖で現実に競走で使われたのはバイアリータークだけである。
三大始祖脚注
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^ 類似の噂話には、アングロアラブ種における血統偽装(「テンプラ」と呼ばれる)がある。
^ 「アメリカンダミー」という呼び方は中島自身の造語である可能性が高い。彼は自著『血とコンプレックス』で「いわゆるアメリカンダミー」と(あたかも既存の用語であるかのように)言及しているが、中島以前の競馬関連書籍でこの言葉を用いた例は見受けられない。
外部リンク [編集]
地方競馬まるごと―三大始祖
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