クラシック
競馬におけるクラシックまたはクラシック競走(Classic Races)とは、各国の3歳馬による三冠を形成する競走を指す。
またクラシック競走であるダービーステークスの施行距離から派生して、芝1マイル1/2または2400メートルの距離をクラシックディスタンスと呼ぶ。
クラシック概要
「クラシック競走」という言葉は元来イギリスのサラブレッド競馬の黎明期から作られていた伝統的な競走を指していた。一般的に以下の5競走がクラシック競走として呼ばれ、いずれも格の高い競走として位置づけられている。
2000ギニー(1809年創設。3歳牡馬牝馬限定)
1000ギニー(1814年創設。3歳牝馬限定)
オークス(1779年創設。3歳牝馬限定)
ダービーステークス(1780年創設。3歳牡馬牝馬限定)
セントレジャー(1776年創設。3歳牡馬牝馬限定)
当初は古くからある競走としてそれぞれ独立したものであったが、やがて牡馬が出走できる2000ギニー・ダービー・セントレジャーの3競走、牝馬限定の1000ギニー・オークス(およびセントレジャー)を制することに意義が持たれるようになった。その達成馬に「クラシック三冠」という特別な称号が与えられるようになると、その傾向はより強くなっていった。
この三冠の概念は後にアメリカ合衆国の競馬界などにも導入され、古くからある競走で三冠を形成したり、イギリスに倣って三冠を形成する競走をクラシック競走と呼ぶようになった。
牡馬の競走に関しては2000ギニー・ダービー・セントレジャーの3競走を模倣して創設されたものが多い一方、牝馬の競走に関してはばらつきが多く特に3冠目の競走が牡馬のものとは別に新設されている場合もある。
主催する国・地域によって若干の違いはあるが、多くのクラシック三冠競走ではイギリスのものと同じく出走条件に「3歳馬限定」という決まりがあり、どの競走馬もクラシック競走に出走する機会は一生に一度だけである。またこれらの競走は種牡馬や繁殖牝馬の価値を高めるための選定競走と位置づけられているものが多く、去勢された騸馬が出走できない場合が多い。またクラシック競走には事前にクラシック登録が義務付けられているものが多く、現代ではその制限は緩和されつつあるが、かつてはその制度がもとでクラシックに出走する機会を得られなかった馬も存在した。
重要なのはクラシック5競走で優勝することであるが、ほとんどの場合でそれらの競走のみに出走することはなく、前哨戦(プレップレース)を何戦か経験してから本番に挑むのが通例である。これらの前哨戦を含めたクラシック競走に至るまでの道筋は「クラシック路線」などと呼ばれ、優勝候補同士の力比べや距離適性、勝算の有無を見定めるためなどに役立てられる。一部の競走には、クラシック競走本戦への優先出走権を得ることができるものもある。
クラシック競走は基本的にいずれの施行団体においても価値のある競走として位置づけられているが、時代の変遷とともに長距離競走の価値が下落し、その影響でセントレジャーおよびそれに相当する競走もまた価値が下落しつつある。このため、一部の国では本来3歳限定戦のセントレジャーを古馬の出走を可能にするよう条件変更したり、距離の改定を試みられるなど、クラシックとしての価値が減衰・消失しているところが見られる。
各国のクラシック
イギリス・アイルランド
クラシック発祥の地であるイギリスのクラシック競走においても、すでに三冠の価値は大きく下落している。2000ギニーとダービーはともに権威ある競走として扱われているものの、距離体系の違いからその両方に出走する陣営は非常に少なくなった。特にセントレジャーはそこに出走する価値そのものの下落が激しく、1970年にニジンスキーが凱旋門賞で敗れたときもセントレジャーを経由するローテーションが原因であったという指摘があるなど、その存在意義は薄れる一方である。
アイルランドでもクラシック三冠競走は存在したが、1983年にアイリッシュセントレジャーが古馬に開放され、三冠競走の体系は消滅している。またアイリッシュダービーは開催時期からイギリスやフランスのダービー馬などが集う場として利用され、こちらもすでにクラシックとは名ばかりのものになっている。
日本
中央競馬
中央競馬のクラシック三冠はイギリスのクラシック競走を模範として形成され、皐月賞・東京優駿(日本ダービー)・菊花賞・桜花賞・優駿牝馬(オークス)の5競走がクラシック競走として創設された。
当初は牝馬の3冠目(ただし、牝馬は2冠までという考え方もあった)は本家と同様に菊花賞がそれに相当したが、1970年に3歳牝馬限定戦のビクトリアカップが創設され、後に同じ役割を果たす競走としてエリザベス女王杯、そして秋華賞が創設されると、牝馬三冠の最終戦はこれらに役割が移された。ただし、この新設された競走がクラシック競走と呼ばれることはなく、現在もクラシックは当初の5競走を指す言葉として使われている。
中央競馬においても世界的な傾向と同じく長距離競走の人気が低下しているが、現在でも菊花賞の価値は高く保たれており、クラシック三冠の価値も今もって最高の評価として健在である。ただし出走可能な競走の選択肢が増えたことから、皐月賞ではなくNHKマイルカップから日本ダービーに出走したり、菊花賞に向かわず天皇賞(秋)に出走する3歳馬も出ている。
中央競馬のクラシック三冠競走にはかつては厳重な出走制限があり、クラシック登録のない馬は出走できなかったほか、外国産馬や地方競馬所属馬に対する出走規制も存在した。現在ではクラシック追加登録制度の適応や、段階的に行われた出走規制撤廃などを経て、せん馬を除くほとんどの中央所属馬が出走できるようになった。2010年より、外国調教馬(海外からの遠征馬)の出走も可能になった。
地方競馬
各地方競馬団体においてもそれぞれの地域ごとに、優秀競走馬選定を目的としたクラシック競走は行われており、サラブレッド以外のアングロアラブ競走やばんえい競走においても三冠競走が存在する。現在主流のサラブレッド競馬においては他地区との交流も盛んに行われており、一部のクラシック競走は中央所属の競走馬も出走可能なダートグレード競走である。
近年はこれらの優勝馬と中央競馬のダート路線の優秀な3歳馬を集め、盛岡競馬場のダービーグランプリにおいて全国のダービー馬同士の対決が企画されていた。ダービーグランプリのグレード撤廃後は、同様の役割を大井競馬場のジャパンダートダービーが担っている。
アメリカ合衆国・カナダ
アメリカ合衆国では、クラシック競走といえば同国でもっとも大規模な三冠を形成するケンタッキーダービー・プリークネスステークス・ベルモントステークスの3競走のことを指している。これらは当時盛り上がりを見せていたこの3競走を制したギャラントフォックスが三冠馬と呼ばれたことがきっかけで呼ばれるようになったもので、イギリスの各競走を模したものではない。またそれらより古くからあるトラヴァーズステークスなどの競走、セントレジャーを模して創設されたローレンスリアライゼーションステークスなどの競走もあるがそれらがクラシックと呼ばれることはまずない。
アメリカの牡馬クラシック競走には騸馬の出走が認められており、現在までにエクスターミネーターなど8頭のケンタッキーダービー馬が誕生している。
それぞれの競走はダートの馬場で行われ、また春季の約1ヵ月間で三冠戦が終わるという非常に短い期間も特徴的である。ダートとしては長丁場のベルモントステークス(12ハロン・約2414メートル)に関しては他国のセントレジャー相当競走と同じくしばしば距離短縮の提言が上げられることもあるが、現在まで条件の変更もなく地位を保ち続けている。
また、牝馬の競走においてクラシック競走と呼ばれていたものにコーチングクラブアメリカンオークスがあるが、クラシックの意味が上記牡馬三冠競走を意味することが多くなった現在においてはあまり使われない表現である。クラシックとは無関係だが三冠路線は存在し、特にニューヨーク牝馬三冠(エイコーンステークス・コーチングクラブアメリカンオークス・アラバマステークス)は同国最大の牝馬三冠路線として位置づけられている。しかし王道の中距離路線に出走する多くの牝馬にとっては5月のケンタッキーオークスが最大の目標になっており、同競走を絡めた新たな三冠体系の確立の検討も行われている。
カナダでは1949年に三冠設置が提唱されて、クイーンズプレート・プリンスオブウェールズステークス・ブリーダーズステークスの3競走がカナダクラシック三冠競走として位置づけられた。ただしいずれの競走もカナダ国内所属の競走馬のみ出走可能な競走で、かつカナダの競走馬でもアメリカクラシック三冠に挑むこともできるためそれに比べると価値は一枚落ちる。これらの大規模な三冠のほか、競馬場を運営する各団体ごとに三冠競走が設定されている。
クラシック関連項目
三冠 (競馬)
ダービー (競馬)
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